8月清記

8月15日締め切り分


1	怯えをる幼児の耳に花火音	
2 その先をゆく白雲や百日紅
3 ドローン飛ぶ今は昔の田草取り
4 花一輪手向ける傍の無縁墓
5 幾世経し朱の瓦や雲の峰
6 久能山二千の段に汗滂沱
7 球速も背丈も伸びて夏終る
8 胸の内母と語らう盆仕度
9 形良き梶の葉求め脚立乗る
10 原爆の子の像すくと炎天下
11 故郷へ走る心や盂蘭盆会
12 御嶽の山ふところや蕎麦の花
13 口吻のジュース飲むごと夏の蝶
14 魂棚の供物の中に通信簿
15 寿命七日台風で三日過ごす蝉
16 樹々さはぐ台風予報太極拳
17 暑に耐えて日々せめてもの土いじり
18 水羊羹出して話は中断す
19 相打ちて開花促す蓮かな
20 走り根や微かに聞こゆ滝の音
21 中天の火星を目指し揚花火
22 朝顔の早や窄みけり二度寝覚め
23 怒る気も失せる未曾有の暑さかな
24 銅像となりしはな子や天の川
25 二十分歩きてかくも日焼け顔
26 八朔や舞妓に日照り容赦なし
27 盆の月遥かに拝む父母の墓
28 無人駅ホームのはずれより青田
29 夜の秋ナイフフォークの銀光る
30 揺れ軋む終の住処ぞ台風裡
31 恋のころ蟹の集まる潮溜
32 臍出して庭の陶狸の雷を待つ
33 閼伽水に浮かべし経木墨滲む
34 あれこれと雨のごてつく半夏かな
35 お地蔵さんに先ずは化粧や地蔵盆
36 トラウマとなりしサイレン終戦日
37 ふるさとや土曜の夜の遠花火
38 道端に日傘を重ね立ち話
39 炎昼の吟行心折れさうな
40 音羽山三輪山かけて虹の橋
41 海風に吹かれつつ見る天の川
42 岩灼くる露天の湯温高からず
43 帰省して勉強部屋に佇む子
44 軒下に唐黍を干す鄙の家
45 校庭に出入る工事車夏休
46 降る飛沫西行法師の詠みし滝
47 今宵また鼠花火は回りけり
48 差し潮の運河明るし海月浮く
49 子に童話法話の老いに天の川
50 時計なしテレビなしとや避暑の宿
51 手から手へ威嚇むなしき兜虫
52 燭涼し飛天の影のゆらめきて
53 生り物の全長測る大暑かな
54 蝉しぐれはや混じり始む法師かな
55 大芝生それたる紫薇の真紅
56 土砂降りの名残の雫浜おもと
57 日を撥ねて風に震へる稲の花
58 売り物の鉢の水やり汗しどど
59 疲れなど霧散や畑でトマト食む
60 眉と紅ちょと引き直す汗の顔
61 病む母に一匙なりと葛桜
62 牧草を刈るアルプスの乙女かな
63 目の中に収まりきらぬ揚花火
64 冷房の店内床に寝そべる子
65 蜩や鴬張りの大廊下
66 蜩や杖止めて聞くもう一度
67 アスファルト割れ目青々夏の草
68 炎天下チエンソー唸る崖っぷち
69 塩飴を舐めるは少し暑に耐ふか
70 帰省子の食の好みの変はりをり
71 起きぬけのすぐの日課や麦茶炊く
72 玉の汗飛び来る画面甲子園
73 銀河仰ぐ京は銀座の四丁目
74 枯れてなほ日輪草の笑顔めく
75 香水やムエット置けば消える夢
76 砂日傘工事の人の休み処
77 雌日芝の道の割れ目に頑と生へ
78 焼酎に切り替え緩む上下かな
79 水替へて大きく開く水中花
80 青田早や鳥除け準備支柱立つ
81 川遊び淵に流され得し泳ぎ
82 訴えるかにみんみんと秋の蝉
83 大雨や跡形もなき蜷のみち
84 竹竿屋の声ひさびさや夏の果て
85 丁寧に洗ひしも髪細りけり
86 鳥の目となりて見晴らす青田かな
87 天の川一軒宿の灯が遠く
88 尼御前の女丈夫振りや垣手入れ
89 日帰りのホームに仰ぐ天の川
90 抜き足の猫を尻目に昼寝かな
91 避暑の夜火星を見むと空仰ぐ
92 紐噛んでポニーテールや夏の人
93 風抜ける京の町屋の夏座敷
94 頬撫でる風の匂ひや夜の秋
95 盆用意母の教への生きてをり
96 来客の幼の寝息夜濯す
97 輪になって老いも若きも盆踊
98 六尺を飛んでばつたの草の色
99 饒舌が和ます酒席暑気払い
100 な滑りそ池の蓮葉に触れるとて
101 はばからぬ涙と汗の球児かな
102 一ノ谷応ふ二ノ谷ほととぎす
103 園広しゲートボールも夏休
104 夏浜辺キンコンカンと鐘が鳴る
105 家族皆目線が一つ蠅を追ふ
106 原爆忌喪服へ容赦なき陽射し
107 古民家の垣根に垂るる蛇の皮
108 口開けて鯉の寄り来る残暑かな
109 今の世に守宮が壁を這つてをり
110 雑草のごとき青紫蘇重宝す
111 参道に読経するごと蝉時雨
112 受け継ぎし父の硯を洗ひけり
113 秋涼しふと着物着てみたくなり
114 小説の世界に暑さ忘れをり
115 小流れのごとくに蟻の列続く
116 常のごと人と行き交う野分かな
117 新しき本を手に取る夜の秋
118 禅寺の築地に点や蝉生る
119 総門お入れば寝釈迦や蝉しぐれ
120 待ちわびし恵みの雨や今朝の秋
121 台風過大和まほろば碧き空
122 地の言葉交はす朝市避暑散歩
123 日焼け止め忘れた場所の赤さかな
124 猫去りて擬死よりかえる守宮かな
125 猫撫でることも憚る夏の風邪
126 敗戦日耳朶に残れるあの雑音
127 半円の高原の空星月夜
128 枇杷啜るつるりと種はたなごころ
129 文庫本仰向けに読む夏座敷
130 墓参終へ五条坂なる陶器市
131 無縁墓まで掃く里の人やさし
132 蜩や散歩小径に息絶へる
(投句者33名)