3月清記

3月15日締め切り分



1	ウイルスのどこ吹く風と春の鴨	
2 コロナ禍の終息願ひ春祈願
3 スキー場跡にかまくら村おこし
4 トンネルを抜ければ紀伊や梅匂う
5 春の雨外出控へよとばかり
6 引く波に置いてきぼりの桜貝
7 雨粒を光らす庭の木の芽かな
8 雲垂れし天下の嶮や春の雷
9 下萌や土手に踏ん張る山羊真白
10 寄り道をして虫出しの雷聞こゆ
11 気兼ねなくひとりの咳をしてをりぬ
12 畦塗って田にめりはりの付きにけり
13 向き合うて蕎麦ひた啜る春の昼
14 主病み女手一つ畑を打つ
15 春陰の帰路は七坂七曲り
16 春浅し新型ウィルス世を席巻す
17 少将の通ひし道や初音聞く
18 船一つ見ぬ冬凪の由比ヶ浜
19 窓ガラス越しの唸りや恋の猫
20 草川の流れきらめく菜花かな
21 待ち合はす辻の目印土佐みづき
22 濁声がピアノと交じる卒業歌
23 暖かや児の匂いするタオル干す
24 椿山より移植せし椿艶
25 東京の開花告知に春の雪
26 鮒の餌の講習会や水温む
27 利休忌や瑞の供華挿す三千家
28 ウイルスに静かな天皇誕生日
29 ウイルスの文字の氾濫春の雪
30 すぐ草に失せて初蝶なりしかな
31 とぐろ巻く宇賀神様へ寒卵
32 靖国の初花今朝のニュースかな
33 ゆらゆらと舞ふ初蝶を子等の追ふ
34 屋根に乗る春月銀に光りをり
35 芽柳の連獅子のごと振り乱る
36 海峡に巨船ふわりと霾れり
37 献木に吾も一施とあたたかし
38 採り時を逃がして庭の蕗の薹
39 冴え返る事も予測や旅支度
40 主の逝きて黄水仙だけ残りけり
41 春夕焼紫の雲たなびけり
42 傷む葉に花芽膨らむ君子蘭
43 卒業式出席できぬ在校生
44 昼灯す千仏洞の涅槃絵図
45 朝からの雨は霙に午後の二時
46 踏まれても何処吹く風やいぬふぐり
47 馴れし目に龍の眼光花の堂
48 乳飲み子は春の光を訝りぬ
49 入り乱る鴨の水輪や陣移る
50 梅映ゆる句碑は青畝や黒御影
51 目を覆ふ感染者数春悲し
52 恋の猫毛を逆立てて凄みけり
53 涎掛け褪せし地蔵や春浅し
54 黴菌を遺棄するごとくマスク捨つ
55 「光圀」の名札の下がる梅真白
56 いと細き挿し木の枝に一莟
57 緩急のなくひねもすの春の雨
58 とり分ける奈良絵の小皿雛料理
59 トンネルの入り口ぽかり春の山
60 ページ繰る手の止まり勝ち春炬燵
61 もう少し歩いてみよう春の宵
62 もっつたいなや畝の間の捨大根
63 疫病に尻切れ蜻蛉卒業す
64 燕二羽上昇反転宙返り
65 啓蟄の時を忘るる土いぢり
66 散らばるは光源氏といふ椿
67 若草山横切る一閃初燕
68 春一番目も開けられぬビル谷間
69 春寒や膝を抱へる河童像
70 春光や白さ戻りし離農の手
71 裾余るベビードレスや風光る
72 雪原に轍をきざむショベルカー
73 達筆な祖父の代筆受験絵馬
74 注文の料理くるまでマスクせる
75 鳥雲にふと口を突く「北帰行」
76 釣り人の徒渡りくる春の川
77 豆の花メンデルの法赤と白
78 猫の耳ぴくぴく動く春の風
79 拝観を拒む塔頭利休の忌
80 飛行機がやけに低きや春来る
81 麗かや保育児溢る箱車
82 ウイルスの不安と共に春深む
83 うららかや散歩の人と言交はす
84 山越えの難所にかかり遍路杖
85 一斉に耕す菜園黒きかな
86 宇治十帖矢印に沿ひ青き踏む
87 歌垣の里に青きを踏み行かん
88 故郷の地名懐かし賀状来る
89 荒磯と畑の狭間黄水仙
90 合格を聞きし電話で泣き笑ひ
91 黒黒と畦を塗り行く機械かな
92 忽然とウイルス跋扈や春の雷
93 傘を打つ音無くなりて春の雪
94 山腹の陽をほしいまま蕗の薹
95 春眠のワルツに酔ひしコンサート
96 塵穴に瑞の一葉や利休の忌
97 雛段に少し控へ目尉と姥
98 星座満つ明日は晴れるか春の宵
99 遡る春の川浪水光る
100 孫三人思ひ出それぞれ雛祭
101 点々とテトラポッドに残る雪
102 梅匂ふ若き尼僧の継ぎし寺
103 明け暮れのウイルス騒ぎ春は遅遅
104 木道に枝傾けて花辛夷
105 野遊びにあらず野仕事今昼餉
106 夕間暮れ姉と覗きし雛の間
107 洋風の離れ屋に松色変へず
108 料峭や足音に寄す鯉の口
(投句者27名)