6月清記

6月15日締め切り分



1	うまごやし遠き思い出駆け巡る	
2 はからずも大ごきぶりと目の合ひて
3 北斎の青六月のカレンダー
4 リズムよく園丁の摘む花菖蒲
5 永き日やカーテンのまだ閉ざされず
6 茎長き玉葱届く干せとこそ
7 五月雨や二階の窓に眠る猫
8 厚切の羊羹父の日は虎屋
9 腰据えて強情引けり夏の草
10 歯ブラシの隣に立ちて水中花
11 新調の雨靴試す走り梅雨
12 谷越えの一打をはやす牛蛙
13 池に映ゆ鳥居涼しく鯉くぐる
14 田の畦の草も一景花菖蒲
15 南天の花や刹那の点描画
16 白詰草咲き満つ宮址踏むは惜し
17 風韻や鐘の音涼し古都の路地
18 風見鶏館へは坂や汗たるる
19 又訪ぬ東林院の沙羅の花
20 老いどちのすぐに集まる梅雨晴間
21 「禁煙」の赤字鉢巻松涼し
22 ごきぶりの大捕物や夫の声
23 曇天に薄紅点ず合歓の花
24 一画に折鶴祀る夏木立
25 夏茱萸の熟るる郷愁参観日
26 学び舎は廃校となりうまごやし
27 三輪なれや三つの茅の輪くぐり行く
28 山裾の色を変へたる竹の秋
29 神の池水輪ゆかしき緑雨かな
30 早苗田のそばに水落遺跡かな
31 草刈の一団憩う木陰かな
32 短夜や庭に雀の気配して
33 地に着きし紫陽花の毬剪りにけり
34 庭に置く蛍袋にほたるゐず
35 南天の花の導や夕間暮れ
36 南天の花散る音のあるやなし
37 梅雨止み間農家の庭の満艦飾
38 麦秋や雲を脱ぎたる赤城山
39 髪の毛の纏まらぬ朝六月来
40 風死せり乱打で終る護摩太鼓
41 六月の花嫁を祝ぐ鐘の音
42 白南風や素顔のままに空仰ぐ
43 どくだみや被爆の毒消しなりしとか
44 ひたひたと格差社会や五月闇
45 メロデイに乗り噴水の躍り出す
46 横に逸れまた目の前にみちをしへ
47 花器に挿す小さき鳳梨拳ほど
48 茅花流し草原なびき白き波
49 軒菖蒲古き家並みの深庇
50 山気満つ一薬草の咲くところ
51 子育てや休む間もなし親燕
52 青梅雨の沈思黙考「負けました」
53 南天の花の零れに風一陣
54 梅雨しとど立て掛けられし茶屋床几
55 梅雨晴や天橋立股のぞき
56 父の日や父好物の落花生
57 防火バケツ並ぶ町家や雲の峰
58 満開を摘み残してや花菖蒲
59 木の影が本に遊ぶや薄暑来る
60 六月の風吹いてゐる小沼かな
61 蛞蝓来る古き厨のひとところ
62 お抹茶の落ちぬ茶杓や梅雨湿り
63 キャンパスを闊歩の若さ風薫る
64 スカートとペアの夏帽溌剌と
65 ため息をつく坂道や百日紅
66 ふはり浮く雲白き空清和かな
67 宇陀吉野分つ峠や時鳥
68 絵手紙や蛍袋の鉢を買ふ
69 軽鳧揚揚十二羽の子を率ゐをり
70 五月雨るる音に目覚めし枕上
71 紫陽花や隣の枝に鞠預け
72 燭の火のさ揺らぎもせぬ梅雨の堂
73 睡蓮の白の輝く亭午かな
74 竹田城跡の石垣梅雨湿り
75 点検の扉を開けて落つ守宮
76 富士塚と名付け崇める丘茂る
77 変わらないことが大事と薄暑かな
78 万緑や路線バスより客一人
79 仄暗き園のぐるりは濃紫陽花
80 蜥蜴いま擬態の色や石の上
(投句者20名)